コラム

配偶者控除の見直しと労働問題

政府が配偶者控除の見直しを検討しているとの報道がなされています。

配偶者控除とは、納税者(通常夫)の所得の税額算定の際に配偶者(通常妻)の扶養を考慮して所得控除が受けられる制度です。

配偶者控除は妻が年間103万円以上の収入を得ると受けられる控除額が段階的に少なくなっていくように設定されています(厳密には「配偶者特別控除」に以降)。これは妻が高い収入を得ている場合までも扶養を考慮して夫の税額を少なくする必要がないとの考えからです。

この配偶者控除に加えて、通常夫の会社では「配偶者手当」として、妻の扶養を考慮して通常の給与に上乗せされた配偶者手当てが支払われています。この「配偶者手当」は妻の収入が103万円を超えると打ち切られるように設定されている会社が多数あります。

そのため、妻が103万円を超えて働くと「配偶者控除」の減額と「配偶者手当」が受けられなくなることにより世帯収入が減少してしまう状況になります(いわゆる逆転現象)。そこで、主婦の方は年間103万円までの就労にとどめるように自主的に就労調整をされています。
これがいわゆる103万円の壁といわれている問題で、女性の社会的進出を阻んでいると批判されています。そこで、政府は、女性の活用と税収のアップを期待して配偶者控除額を103万円から引き上げることを検討しています。

しかし、たとえ政府が配偶者控除を引き上げても、企業が配偶者手当の支給条件をこれまでのように103万円までなどで設定していると、結局世帯総収入が少なくなることから、女性が103万円を超えて働く動機付けが得られません。

そこで政府は、配偶者控除の見直しとともに、経済界に対して配偶者手当の見直し、つまり廃止したり給付額を減少させることを要請しています。
しかしながら、これには、労働法上の問題が絡んできますので問題は簡単ではありません。
なぜなら、配偶者手当は、労働法上「賃金」に該当し(労働基準法11条)「賃金」を減額することは労働法上厳しい規制がされているからです。

具体的には、「賃金」の引き下げには労働者の個別の同意を必要とされていますし、労働者の個別の同意がなくても就業規則や労働協約の変更によって「賃金」引き下げも可能ですが、これもかなり厳しい規制下のもとようやく許されています。
そのため「賃金」の引き下げは容易ではなく、基本的には、労使の合意によってしか配偶者手当の撤廃や引き下げはできません。
そこで、企業によっては、配偶者手当を廃止する代わりに、別の手当てに切り替えるなどしている企業もあるようです。

この問題に関して、インターネット上には、厚生労働省の「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」と題する文書がアップされていますが、少子高齢化社会、生産年齢人口の減少により女性の更なる社会進出が求められる状況の中で、配偶者手当の見直しについて労使で“真摯な協議”をしてもらいたいと記載されています。

確かに、女性のさらなる社会進出は今後重要な課題ですので、政府の考えも理解できるところです。

しかしながら、配偶者控除とそれに付随した配偶者手当の見直しは、女性の就労を促進する面もありますが、増税の側面も透けて見えるところです。これらの見直しが真に世帯全体の収入改善及び女性の就労環境の改善につながるのであれば当然見直されるべきですが、そうでないのなら慎重な議論が尽くされるべきでしょう。

企業側にとっては配偶者手当にかわる代替手段を用いつつ、例えば別の手当てに切り替えてトータル支給額が変わらない配慮をしつつ労働者側と協議するなど、法律を遵守しつつ真摯に協議していくことが必要となるでしょう。