コラム

民事執行法の改正の要点(財産開示手続拡充/不動産情報・勤務先情報・預金調査の強化/債権回収が強化されます)

1.はじめに

民事執行法が改正され本年4月1日より施行されました。
この記事では民事執行法の改正部分で特に重要性の高いと考えられる債権回収に関連する部分をお伝えいたします。

なお、民事執行法で新設された金融機関からの預貯金口座の開示手続は、以前から一部の金融機関において弁護士会照会にて開示がなされていた部分です。
弁護士会照会とこの度新設された民事執行法の預貯金口座の開示手続の比較については、本ブログ記事につづく「民事執行法の改正(その2)~民事執行法の預貯金債権の開示手続と弁護士会照会による預貯金債権の開示手続きの比較~」を御覧ください。

2.民事執行法の改正点

主な改正点は

  1. 財産開示手続の拡充
  2. 債務者の不動産や勤務先、預貯金口座など第三者からの情報提供手続の拡充
    (登記所や市町村、銀行などの第三者からの情報提供手続の拡充)

です。一言で述べると判決取得後に債務者の財産に対して強制執行して権利実現を図る手続が充実したということができます。
以下1、2の順に詳しく述べます。

1、財産開示手続の拡充について

「財産開示手続」(民事執行法196条)とは、裁判所が債務者を裁判所に呼び出したうえ、債務者に自己の財産を開示させる制度です。
この手続きを通じ債権者は開示のあった債務者の財産に対する強制執行が可能になりますし、場合によっては強制執行を避けたい債務者から任意の弁済を受けることが可能になります。

財産開示手続は、改正前民事執行法でも規定されていましたが、債務者が期日に出頭しなかったり(不出頭)、出頭しても開示を拒んだり(不陳述)、虚偽の陳述をしても(虚偽陳述)、罰則が罰金30万円と非常に低額でしたので、開示するくらいなら罰則を受けたほうがましという債務者が多く機能不全に陥っていました。
そこで、改正法では、不出頭、不陳述、虚偽の陳述に対して、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を規定しました(法213条1項5号、6号)。

罰則が強化された結果、債務者は違反した場合身柄拘束される可能性があり、また、一定の事業者は刑事罰を受けると事業に必要な登録や資格が取り消される可能性があり、債務者にとっては非常に大きなサンクションが課されました。
このようなサンクションの元、今後財産開示手続がより実効性ある手続になることが期待されます。
なお、「財産開示手続」を行うためには、債権者は「債務名義」つまり民事裁判の判決文、裁判所での和解書など強制執行可能な文書を有している必要があります(※その他先取特権を有する者なども可)。

2、債務者の不動産や勤務先、預貯金口座など第三者からの情報提供手続の拡充

次に改正民事執行法は、債務者本人からではなく、債務者財産に関する情報を有する第三者から財産開示をさせる手続を拡充させました。
尤も、民事執行法はあらゆる財産の開示を可能としたわけではなく、次の3種類の財産について調査・開示を可能としました。

(1)不動産情報の開示(法205条)

債務名義(判決など)を有する債権者は、登記所に対し、債務者の名義の不動産がないか照会を行い、ある場合には開示をしてもらうことが可能になりました(法205条1項1号)。

但し、登記所に対する情報開示は、債権者が1で述べた財産開示手続を先行する必要があり(民事執行法205条2項)、それにも関わらず債務者から強制執行で十分な回収ができる財産の開示がなされなかった場合に限るとされています(法205条1項1号、197条1項)。
なお開示に際しては債務者の防御のために裁判所から債務者に事前に連絡がなされます。

(2)給与情報の開示

債務名義(判決など)を有する債権者は、市町村や日本年金機構及び共済組合等に対し、債務者の勤務先に関する情報の開示を請求することが可能となりました。これにより、債権者は債務者の勤務先の給与に対して給与差押さえの強制執行を行うことが可能となりました(法206条1項)。
但し、給与情報の開示においては「財産開示手続」を先行する必要があります(法206条2項)。

また、給与情報の開示を求めることのできる債権者の範囲は限定されており、婚姻費用や養育費を請求することのできる者(例えば離婚後子供を引き取って育てている親)や生命・身体に対する損害賠償請求権を有する者(例えば交通事故の被害者)に限られます(法206条1項)。
なお開示に際しては債務者の防御のために裁判所から債務者に事前に連絡がなされることは不動産情報の開示の場合と同様です。

(3)預貯金口座の情報の開示

債務名義(判決など)を有する債権者は、銀行や信用金庫、JAバンクなどの金融機関に対し、債務者の預貯金口座に関する情報の開示を請求することが可能になりました(法207条)。

開示される情報は、「預貯金債権の存否、預貯金債権が存在するときは、店舗、種別、口座番号及び額」とされています(改正民事執行規則191条1項)。
これにより、債権者は債務者の預貯金口座の差押えを行い債権の回収を実現することが可能となりました。

なお、不動産情報や勤務先情報の開示と異なり、債権者は預貯金口座の開示請求に際し「財産開示手続」を先行させる必要はありません。なぜなら、財産開示手続を先行させると預貯金口座が解約されるなどの可能性があるためです。

また、不動産情報や勤務先情報の開示と異なり、預貯金口座情報の開示の場合は、開示前に裁判所や金融機関から債務者に連絡はなされません。これも事前に連絡すると預貯金口座が解約されるなどの可能性があるためです。但し、開示後約1か月後に金融機関から債務者に開示を行ったとの連絡が行われます(法208条2項)。

金融機関からの債務者の預貯金口座の情報開示は、以前から一部の金融機関において弁護士会照会にて開示がなされていた部分ですが、民事執行法の改正によってすべての金融機関を対象として申し立てることが可能となりました。

→なお、民事執行法の預貯金口座の開示手続と弁護士会照会による預貯金口座の開示手続の比較については、本ブログ記事に続く「民事執行法の改正(その2)~民事執行法の預貯金債権の開示手続と弁護士会照会による預貯金債権の開示手続きの比較~」を御覧ください。

3.まとめ

以上の通り、この度民事執行法の改正により、債務者の資産調査手続きがかなり拡充されましたので、今後の債権回収に寄与するものと思われます。
なお、上記の民事執行法の改正については、法務省のウェブサイトに非常によくまとめられていますのでご参照ください。